『まだ結婚できない男』の桑野信介はヘンクツではなくて、むしろ優良物件だ
今宵、どんなドラマを描こう 第5回
■「結婚してもしなくても、セカンドステージが幸せかどうかには本質的に関係ない」
桑野がただの嫌なヤツで終わらないのは、たまにはいいことも言うからだ。
女優業の行末に悩む隣人に
「どんな仕事にだって必ず辞めたいという時が来る。でもそこで踏み止まれたら、それこそ本当の第一歩なんだ」
愛あるアドバイスを告げる。『未来の建築を考える』がテーマの講演では、
「人生が長くなれば、残念ながら不安も増える。ただそのぶんチャンスが増えるとも言える。(中略)結婚してもしなくても、セカンドステージが幸せかどうかには本質的に関係ない」
こんな名言で、会場内の客を納得させた。これらの名言が示すように、彼の本質の部分は淀んでいないと思う。もし淀んでいたら、胸打つ言葉は溢れてこないのだから。本当に余談で恐縮だけど、名付け親となった拙著『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』のタイトルとセリフがシンクロした。これは書いた人間としては、ラッキーハプニングだと、桑野のようにしたり笑顔させてもらった。ニヤリ。
仕事はエリート、掃除も料理も一通りはできる。余分なことは言ってくるけど、優しさも見せる桑野。ついでに浮気をしないタイプだろう。偏屈だと笑われているけれど、実はいい夫の条件が揃った優良物件じゃないか。そして彼の言動は気づかぬうちに自分もしているかもしれないと思うと、このドラマはニヤニヤ見ているだけでは感じることのない、反面教師物語。作品の“深さ”がそこかしこに隠されている。
テレビドラマがひと昔前のように、全12話まで放送されなくなった時代になった。そんな最中にシリーズ化という盤石ぶりを見せるのは、一話にたくさんのギミックが仕掛けられているのだと、改めて。きっと桑野信介はここから先、何十年後も変わらない。そんな彼の葬式までドラマが続かないかな。弔問客たちが彼のことをどんなふうに話すのか、そっと盗み聞きをしてみたいのだ(私に桑野、憑依中)。
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本連載、著者の小林久乃さん初の著書
2019年11月29日発売
『結婚してもしなくても うるわしきかな人生』
小林久乃・著
未婚・既婚にこだわる時代はもう終わり!
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